最初に視たのは、光だった。
視界を満たす圧倒的な光量。それでいて瞳には何の負荷も感じない。視れば視るほどに綺麗であの感覚を夢心地というのだろう。
魔術が存在するこの世界で、そのような不可思議な現象……奇跡と呼ばれる事象は今更な話でもある。
人が再現でき、それが人の世に浸透する。奇跡という価値観は次第に希薄になっていく。
故に、人の認識も軽薄なものへと成り下がるのだ。
その驕りが。その傲慢さが。その慢心が。
"本物の奇跡"を視た時に、人から正常な判断力を奪い去る。
欲しいとも、逃げたいとも、怖いとも、思えない。ただ、圧倒される。
そして思うのだ。
それを視なかったほうがどれだけ幸せだったのだろうかと。
光は徐々に眩くなる。光がどんどん近づいてくる。
少年の瞳に吸い込まれていく。少年の意志を無視して光が侵蝕する。自分が、自分の一部が魔性を帯びていく。自分が自分でなくなっていく。あまりにも理解できない、当てはめることのできない埒外が少年の脳を上書きしていくのだ。
プツリ、と体が限界を迎えた時。
少年は己が逸脱したことを識った。
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アランベルク王国の首都。
魔術によって栄えた国。
又の名をマジシャンズ・シティー。
今でも思うことは一つ。
後悔だ。
何故、自分はこんなところにいるのだろう。
むしろ"自分自身"はこんなところに喜んではこない。拒絶するだろう。
焚き火から跳ねた飛び火を避けるように反射的にそうなる。
もっと言えば、"自分の理性が"。
あらゆる"魔的"に破壊衝動を覚える。
それが、自分だ。
内側に、本能に魔術の匂いが色濃く染み付いている。
どんな染みよりも深く、深く根を張っているのだ。
だから静かに生きる……。だから、ひっそりと生きたい……。誰にも指図されず、誰にも見られず、感じられない、誰にも干渉されない。
そんな孤独な世界を、渇望する。夢は見たくない。夢は夢だ。それならば人らしく求めていた方が、まだ自分がはっきりとしている。
自分がほしいのは自分。
体(まがん)が求めるのは孤独。
そうやって自分は、今日も内を否定した。